2023年4月6日木曜日

債権差押命令に対する執行抗告棄却決定に対する許可抗告事件(最決令和5年3月29日)

この最高裁決定、債権差押、転付命令、電子記録債権と興味深いキーワードが並んでいます。

おまけに超過差押えであるとして債権差押に対してなされた執行抗告を棄却した福岡高裁決定を破棄、差し戻し事案。

どうしてこんなことになったのか。


1 債権者Xが、債務者Yに対して、金銭の支払いを命ずる判決を取得

2 令和3年11月15日、Xが、Yが第三債務者Aに対して有している債権について、差押命令及び転付命令を取得

3 Aが差押命令の送達前に、転付命令にかかるYの売掛債権の一部の支払いのために電子記録債権を発生させる。

3 令和3年11月18日、転付命令がAに到達。令和3年11月25日、転付命令がYに到達し、確定。

4 Aは電子記録債権の支払いをし、Xには被転付債権の支払いをしなかった。

5 Xは、令和4年1月22日、Yが有する売掛債権について差押命令を得たが、差し押さえた債権の中に債権1が含まれており、被転付債権の額を控除していなかった。

6 Yは、転付命令がAに送達された時点で被転付債権は存在していたから、被転付債権の券面額でXに弁済されたものとみなされるため、Xの差押えは超過差押えに当たるとして、取消しを求める執行抗告


福岡高裁決定

 差押えに係る金銭債権がその支払いのために発生した電子記録債権の支払により消滅し、第三債務者がこれを差押債権者に対抗することができるときは、転付命令により執行債権が弁済されたものとみなされることはない。


最高裁

 第三債務者が差押命令の送達を受ける前に債務者との間で差押えに係る金銭債権の支払のために電子記録債権を発生させた場合には、送達後に電子記録債権が支払われたとしても、差押えに係る金銭債権は消滅し、第三債務者はその消滅を差押債権者に対抗することができる。(最高裁昭和49年10月29日判決。債権者が差押・転付命令を取得し、第三債務者が差押送達前に小切手を振り出し交付し、差押送達後に小切手が支払われた場合、第三債務者は小切手の支払いによって原因債権が消滅したことを債権者に対抗できる)


 転付命令が効力を生じた場合、転付命令に係る金銭債権が存在する限り、差押債権者が現実に金を受け取ることができなくても、転付命令が第三債務者に送達されたときにその券面額が弁済されたものとみなされる。


 転付命令が第三債務者に送達された後に、第三債務者が電子記録債権の支払をした場合は、転付命令に係る金銭債権は弁済の効果が生じる時点で存在していたから、弁済の効果が発生する。


時系列で並べると

1 第三債務者が、電子記録債権を発生させる

2 第三債務者に、差押・転付命令が届く(電子記録債権支払い前)

3 転付命令が確定し、券面額で債権者に弁済されたものとみなされる。

4 電子記録債権が支払われる(第三債務者は、差押債権者に支払いを対抗できる)


 最高裁が理路整然と述べるように、

  債権者の有する債権は、弁済(とみなされた)額だけ減少する(実際には支払われていないが)。

  だから、弁済(とみなされる)額を控除していない差押は超過差押となる。


 タイミングが悪かったというべきでしょうか。


 この最高裁判決には、親切なことに、債権者がどうしたらよいかが、カッコ書きで以下のように記載されている。


  差押債権者は、債務者に対し、債務者が支払を受けた電子記録債権の額についての不当利得返還請求等をすることができる



  不当利得とは、法律上の原因なく、他人の財産によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の損する限度において、これを返還する義務を負う、というものです。


  Yが、Xから、(電子記録債権で)売掛金の支払いを受けたことが、「法律上の原因なく」、「他人の財産によって利益を受け」になるのか?という疑問が生じます。


  転付命令という制度によって、弁済されたとみなされて、債務者に請求ができなくなった債権を、不当利得として債務者に請求できるのだろうか??


  債権者が現実に弁済を受けとらなかったのにみなし弁済があったとされるのは転付命令がそのような制度だからで、その分の債権が消滅したのは法律によるものでは?


  債務者が受け取った売掛金(利得)は、本来債権者が受け取るべきものだったから、という理屈でしょうか。理路整然とした最高裁の説明ですが、この部分には論理の飛躍があるような気がします。

  

  かといって、福岡高裁決定は転付命令のみなし弁済と整合性がとれていないし。


  手続法上債権は消滅してしまうけど、実体的におさまりが悪いというのであれば、最高裁おすすめの不当利得構成よりは、福岡高裁決定に沿って

 

   差押到達時点で存在していた債権がその後債務者への支払いが第三者に対抗できる場合には、被転付債権は消滅しない


  と法律を改正するのがよいのではと思います。


2023年4月4日火曜日

不正競争防止法ー営業秘密(令和5年3月18日名古屋地裁判決)

 名古屋地裁で、令和5年3月18日、不正競争防止法違反(営業秘密開示)事件で無罪判決がだされたとの記事。

 記事によれば、開示された情報が営業秘密に当たるかどうかが争点であり、裁判所は「情報は抽象化一般化されすぎていて一連一体の工程として見てもありふれた方法を選択して単に組み合わせたものにとどまる。営業秘密を開示したものとは言えない」との判断をしたとなっている。


 行為の主体は「会社の専務取締役と従業員」で、行為は「自社工場内でホワイトボードに同社の製品の製造に使う装置の情報を伝えたこと」。ここには争いがないらしい。

詳しい事情はわからないが、そもそもこの態様で営業秘密開示の刑事事件?という気がする。


 不正競争防止法における営業秘密とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないものをいう」(不正競争防止法2条6項)である。

 そのため、「秘密として管理されていること」「有用であること」「公然と知られていないこと」の要件を満たしている必要がある。営業秘密の例として引き合いに出されることが多いのはコカコーラのレシピである。金庫に厳重に保管されていて数名した知らない、と言われている。これだと、秘密として管理されているし、販売に有用な情報であるし、公然と知られていない、ので、営業秘密であることに間違いはない。


 コカコーラほど厳重に管理するのはむつかしいだろうけど(都市伝説かもしれないが)、オフィス内で従業員がだれでもアクセスできるキャビネットに営業秘密を記載した書類を入れていたりすると「秘密として管理されている」という要件を満たさないし、他社でも一般に用いられている技術を厳重に管理して営業秘密だと言っても「公然と知られている」ものなので秘密とならない。

 営業秘密として管理するなら、「営業秘密」とファイルに明記し、鍵のかかるキャビネットに保管し、鍵にアクセスできる担当者を限定し、従業員には、営業秘密の閲覧·持ち出しは禁止されていることをしっかりと伝える、くらいのことはしてほしい。ファイルを机の上に出しっぱなしにして従業員や外部者の目にふれるようなこともしてはいけない。なかなか大変。


 取引相手との守秘義務契約に、提供した情報、物は秘密として管理すること、という条項があると、受け取った情報や物の管理をするのにどのくらいのスペースが必要になるだろうか、と心配になる。しかも、限定をつけずにすべての情報、物を秘密として管理すること、という条項になっていたりする。契約締結前だと、秘密として管理する対象を限定してもらえないか交渉した方がよいとアドバイスするが、本契約前の契約交渉のための守秘義務契約だと、そのチェックに弁護士費用をかけたくないという思いも、そのための交渉に時間をかけたくないという思いも、とにかく本契約の締結まで進めたいという思いがあることも理解できる。悩ましい。


 さて、冒頭の事件に戻ると、検察は不正競争防止法違反で起訴しておきながら、「営業秘密」の要件を満たしているかの検討をしていたのか、という疑問が生じる。無罪の理由が証拠不十分とか、新たな事実が発覚した、とかではなく、法律で定められた定義にあてはまらない、というものである。刑事事件で起訴された人の負担を考えると、無罪になったからよいとはとてもいえない。


2023年3月15日水曜日

2023年3月10日最高裁判決 トラック運転手未払い賃金請求事件(固定残業代についての最高裁判決)

この最高裁判決は、国内労働法の問題なのですが、読んでいて少しわかりにくかったのと、それならどうしたらいいのか、と思いましたので、メモにまとめました。


本件は、就業規則で固定残業代制度を導入している勤務先に対し、トラック運転手が時間外労働に対する賃金及び付加金を求めた事案です。原審福岡高裁は未払い賃金はないとして請求を棄却したのに対し、最高裁は、福岡高裁が割増賃金に関する法令の解釈適用を誤ったとして、差し戻しました。


 この会社の賃金体系は以下のとおりです。

(1)平成27年5月以前

   業務内容に応じて月ごとの賃金総額を決定する。

   賃金総額から、①基本給と②基本歩合給を引いた額を③時間外手当とする。


 

月ごとの総額を各人ごとに決定

時間外手当(総額から①と②を引いた額)

 基本歩合給

① 基本給


(2)平成27年5月、労働基準監督署から、適正な労働時間の管理を行うよう指導を受けたことから、以下のように就業規則を変更し、従業員に説明をした。

   基本給等 ①+②+③

       ①基本給 各人ごとに決定

       ②基本歩合給 出勤1日あたり500円を支給

       ③勤続手当 勤続年数に応じて出勤1日あたり200円から1000円を支給

   割増手当 業務内容に応じて決定した月ごとの賃金総額から基本給等(①+②+③)を引いた額

       ④時間外手当 基本給等(①+②+③)を通常の労働時間の賃金として法律どおり計算

       ⑤調整手当  割増手当から④時間外手当を引いた額



月ごとの総額を各人ごとに決定

割増手当

(総額から基本給等を引いた額)

調整手当(割増手当から④を引いた額)

時間外手当(①+②+③)をベースに計算

基本給等

勤続手当

基本歩合給

基本給


     平成27年5月以前も以後も月ごとの賃金総額はあらかじめ決定されているのですが、平成27年5月以後は、時間外手当は残業時間に応じて計算されるので、残業時間数によっては、総額を越える可能性もあります。


     福岡高裁は、調整手当は時間外労働時間に応じたものではないので、労働基準法37条の割増賃金ではないが、時間外手当は割増賃金であるとし、支払い済みとしました。


     これに対して、最高裁は、

      ・ 割増賃金を払ったというためには、通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができる必要がある。

      ・ 本件では、④時間外手当が決まると⑤調整手当の額が決まるという関係にあるから、両者を区別する意味がない。

      ・ 以上より、割増手当(④+⑤)が時間外労働に対する対価なのかが問題となる。

     とし、

      ・ 従業員に支払われている賃金の総額は、平成27年5月以前も以後も変わらないが、調整手当の導入により、通常の労働時間の賃金が、時間あたり、1300円から1400円だったのが平均840円となる。

      ・ 上告人の1か月あたりの時間外労働時間は平均80時間であるが、支払われている割増賃金の額は想定しがたい程度の長時間の時間外労働を見込んで過大な割増賃金となっている。

      ことから、割増賃金には、通常の労働時間の賃金として支払われるべき部分を相当程度含んでいる、とし、そうすると通常の労働時間の賃金と割増賃金とを判別することができないことになるので、割増賃金が支払われたということはできない、

    としました。


     時間外手当と調整手当の合計が割増賃金なのだが、そうすると通常の賃金が安くなりすぎるし、割増賃金から計算される時間外労働が長くなりすぎるので、調整手当には通常の賃金が含まれていると考えるべきであり、そうだとすると、どの部分が割増賃金かがわからないので、割増賃金の支払いとはいえない、という理屈と思われます。

     

     時間外労働時間に応じて計算した時間外手当は払われているのだが、規範的に見てこの給与体系はだめという理屈のようです。わかりにくいです。


     草野判事の補足意見は、結論は同じなのですが、思考過程や理由を具体的に書いてあります。

      実際の労働時間数にかかわらず、一定額の割増賃金を支払う制度を固定残業代制度という。

      非生産的な時間外労働が生じないようにするために固定残業代制度を利用するのは経済合理的な行動として理解しうる。

      固定残業代制度でも、法定割増賃金の額が固定残業代を超過したときには、超過分を支払う必要がある。

      超過分が発生しないようにするには、固定残業代を非生産的な労働時間に至らないと思われる時間外労働時間よりも長い時間外労働時間を想定して固定残業代を設定する必要がある。

      想定される時間外労働時間よりも長い時間外労働時間の割増賃金を支払うことになるため、使用者が通常の労働時間に対する賃金の水準をおさえようとすることには経済合理的な行動として理解できるので、労働基準法37条の潜脱と評価するのは相当ではない。

      しかし、固定残業代制度で、実質は通常の労働時間の賃金として支払われるべき金額が名目上時間外労働に対する対価として支払われるのは、脱法的であり、割増賃金の支払いとして認めるべきではない。

       仮にそれが認められるなら、使用者は想定残業時間を極めて長くすることが可能となり、労働者に長時間の時間外労働をさせることができるようになり、それは労働基準法37条の趣旨(時間外労働を抑制し、労働者への補償を実現する)の達成ができなくなるからである。


       つまり、本件は、就業規則に基づいた計算をすると異常な長時間労働をさせることができるようになっているため、実際には異常な長時間労働となっているわけではなく、従業員に支払われている給与総額は就業規則変更前と同程度に支払われていても、給与体系自体がアウトだからアウトということのようです。


       以上より、固定残業代制度が全くだめというわけではなさそうなので、今後固定残業代を設定する場合には、調整手当と時間外手当の二本立てではなく、時間外手当のみとし、時間外手当の設定に用いる想定労働時間を現実的なものにすることで、裁判所で割増賃金の支払いを否定されない給与体系となると思われます。

      

            

2023年2月24日金曜日

スタートアップについて(2)

 昨日、スタートアップのエクイティファイナンスは半額を超える自己資金が必要なのではと記載しましたが、森弁護士の解説を思い返すと、種類株式、議決権のない株式、を発行して資金調達をしていらっしゃるのだと思いました。

森弁護士はまた、デットファイナンスをしない理由として、利息制限法をあげていらっしゃいました。10社に1社程度の割合でしか上場しないので、利息制限法に基づく利息では、リスクをとれないという理由です。

塚田氏の説明にあったスタンフォード方式(5対3で出資。起業家が5、資金提供者が3。3の出資をした資金提供者が会社のスタートに必要な資金を貸し付ける)とのメリットデメリットを考えてみました。

資金提供者から見れば、貸付金方式は会社が成功しても一定の利率の利息しか受け取れない、かつ、会社がつぶれたら貸した資金は回収できない。種類株式方式なら、会社が大きく成長したら出した金が何百倍にもなる可能性がある。会社が失敗したら回収できないのは貸付と同じ。

5対3プラス貸付方式なら、名目的な額で8分の3の株式を持った上での貸付なので、会社が大きく成長したときには、株式の価値は会社の成長に応じて上がるうえ、貸した資金は(わずかとはいえ)利息をつけて戻ってくる。会社が失敗したら回収できないのは同じ。

起業家からすれば、種類株式方式は、種類株のデザインとそれを書面に落とし込んだ契約書等のペーパーワークが必要で、時間と金がかかる。

5対3だと議決権の8分の3は他人が持つことになり、過半数(8の過半数は4を少し超える)は起業家が持つが、3分の2には足りない(8の3分の2は5を少し超える)。

他方出資者からすれば、起業家の持分が過半数かつ3分の2弱ということで、運営の迅速な意思決定は妨げないが、3分の2の議決が必要な重要な事項については企業家に単独でされないという安心感がある。

さらに言えば、出資者はスタートアップにランダムに出資するわけではないから、おそらく、出資金が返済される確率は10分の1以上では。

このように見ると、スタンフォード方式はよく考えられた合理的なスキームに見えますね。

ただ、スタートアップ法務専門の森弁護士からすれば、机上の空論と言われそうです。

どこが、と言えば、日本にスタートアップに投資する投資家が少なく、米国とは土壌が違う、スタンフォード方式で出資してくれる人を見つけるのが困難、ということではないかと思います。

亡くなられた瀧本先生がエンジェル投資家でいらっしゃったのを思い出しました。

企業の価値と将来性を見る目と資金を持った人がたくさんいることが、起業家にさまざまな挑戦をすることを認める社会の基盤である、というなんだか言い古されたフレーズに行き着いてしまいました。


2023年2月23日木曜日

スタートアップについて少しだけ

 大阪弁護士会のスタートアップ法務研修(講師森弁護士)で、スタートアップの資金調達はエクイティファイナンスで、デットファイナンスではない、そのため一般的に、スタートアップの会社が破綻しても債務はないので破産ではなく、清算となる、という説明を聞いて、少し前に読んだ空禅抹茶の起業に関する記事に書いてあった資金調達の方法の話が気になったので、セミナー後に読み直してみました。

記事には、空禅抹茶の創業者の塚田氏の話として、共同出資者と5対3で出資して会社を設立し(シリコンバレーでは一般的な方法とのことです)、共同出資者から2000万円を会社に貸し付けてもらって開発をすすめたと書いてありました。

エクイティファイナンスだけだと、起業者も50%以上の自己資金を準備しないといけなくなるので(会社の支配権を持つために)、借入(デットファイナンス)となりますよね。ただ、出資者も8分の3の株主で、貸付は自己責任で、起業者に会社の連帯保証しろとか言わないのでしょう。

森先生の解説では、スタートアップ会社10社のうち上場までいくのが1社、2つくらい誰かに買ってもらえたら、という確率だそうです。

空禅抹茶は株主2名(5対3)で2000万円の借入でスタートし、企業価値が5億円になったときに外部の投資家から1億円の出資を受けたとなっていました。企業価値5億円に対して1億円の出資なので、外部投資家の持分は6分の1。当初の2人(5対3)の持分は、合計で6分の5。塚田氏の持分は、5/6*5/8なので、48分の25。過半数を少しだけ超えています。よく計算されているなあ。(実際には、追加で数百万円を出資されたとあるのですが、6億に対して数百万なので、持分比率にはたいした影響はなさそうです)

空禅抹茶は、日本でも抹茶マシンを販売しているそうなので、買ってみようかと思ったのですが、よく考えたら、米国で抹茶マシンが必要だったのは、茶筅で抹茶を溶かすことを知らない米国人に抹茶を販売するためと書いてあるので、茶筅があればマシンいらないのでは。

なお、5対3は、50ドルと30ドルだったそうです。

50ドルが3億円超。そして、世界の人の幸福を少し増やしている。スタートアップって夢のある話ですね。

2015年7月24日金曜日

アップルミュージックは独占禁止法に違反するか?

アップルが定額制の音楽配信が、反トラスト法に違反しないか米国の議員がFTCに調査の要請をしたということがニュースになっている。

日本では、2015年4月28日に最高裁で、JASRACの定額制の使用料規定が独占禁止法に違反するとの判決が出されているので、この判決が参考になるだろう。

最高裁判決の理由は以下のようなものである。
 参加人(ジャスラッック)の年間の包括許諾による利用許諾契約によれば、使用料は包括徴収によることとされ、当該年度の前年度における放送事業収入に所定の率を乗じて得られる金額を当該年度の放送使用料とする、とされている。
 本件で問題とされた行為は、包括徴収による利用許諾契約を締結し、これに基づく放送使用料の徴収行為(本件行為)である。
 
 本件の市場は、放送事業者による管理楽曲の放送利用にかかる利用許諾に関する市場(本件市場)、である。

 平成13年10月の著作権等管理事業法の施行に伴い、文化庁長官の登録を受けた業者は被上告人を含む4社である。

 平成18年10月に被上告人が参入するまでは、本件市場において放送使用料の収入を得て事業を行っていた管理事業者は、参加人のみであった。

 独占禁止法2条5項の「他の事業者の事業活動を排除」する行為に該当するか否かの判断基準は以下のようなものである。
  自らの市場支配力の形成、維持ないし強化という観点からみて正常な競争手段の範囲を逸脱するような人為性を有するもの
   かつ
  他の管理事業者の本件市場への参入を著しく困難にするなどの効果を有するもの
 
 判断要素(総合的に考慮)
   本件市場を含む音楽著作権管理事業に係る市場の状況
   参加人及び他の管理事業者の上記市場における地位及び競争条件の差異
   放送利用における音楽著作物の特性
   本件行為の態様は継続期間等の諸要素

 事実認定
  1 平成13年10月の時点で、管理、委託及び利用許諾の各市場は参加人による事実上の独占状態だった。
  2 管理楽曲に係る利用許諾、不正利用の監視、使用料の徴収、分配を行うには多額の費用を要するため、他の管理事業者による各市場への参入は相応の困難を伴う。
  3 大部分の音楽著作権について管理の委託を受けている参加人との間で包括許諾契約を締結することなく、他の管理事業者との間でのみ利用許諾契約を締結することは想定し難い。
  4 放送番組の楽曲選択は、基本的に代替的な性格を有している。(複数の楽曲の中から選択されるのが通常である)
  5 放送使用料の金額の算定に管理楽曲の放送利用割合が反映される余地がなく、他の管理事業者の管理楽曲を有料で使用する場合は、追加の放送使用料の負担が生ずることとなる。

以上により、最高裁は、JASRACの包括契約が、他の管理事業者の本件市場への参加を著しく困難にする効果を有する、とした。

さて、アップルミュージックはこの判決の理由にあてはまるのか?
  検討にあたり、
   市場は、個人に対する音楽配信市場とする。
   行為は、定額制で無制限の音楽配信契約とする。
  
  2015年7月時点で、個人に対する音楽配信事業はほぼ独占されていたか?(あるいは、現時点でほぼ独占されているのか?)
  新規参入は困難か?
  音楽著作権のうち、大部分を管理しているか?
  楽曲選択は代替的か(事業ではなく、個人なので、事業より好みが反映されるはず)
  利用割合は反映されず、他の管理事業者の楽曲を使用するときは追加の負担が生じることは本判決と同じ。

 このように比較すると、個人に対する配信事業は、管理する音楽著作権の割合、とりわけ人気の高い音楽著作権を管理する割合で、結論が分かれそうだ。
  



 


2015年7月17日金曜日

会計処理条項違反罰則(FCPA)

先日「危機的状況下の企業の防衛」-Dealing with Companies in Crisis- のセミナーを聞きに行ったとき、FCPA(米国外国公務員贈賄防止法 Foreign Corrupt Practice Act)には贈賄禁止条項違反の規定だけでなく、会計処理条項違反の規定があり、形式犯である会計処理条項違反の罰則の方が重い、という説明があった(村上康聡弁護士)。

どのくらい重いかというと(村上弁護士のレジュメから引用)

賄賂禁止条項違反は
自然人 
  5年以下の拘禁
 または/及び  
  25万ドル以下 または 
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金
法人
  200万ドル以下 または
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金

会計処理条項違反
自然人 
  20年以下の拘禁
 または/及び
  500万ドル以下 または
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金
法人  
  2500万ドル以下 または
  犯罪行為によって得た利益 もしくは 受けた損失の2倍以下の罰金

罰金の上限の差を見ると、おそらく賄賂による利益より、違法会計による利益の方が10倍以上大きく、かつ、賄賂よりも社会に及ぼす影響が大きいのだろうと推測される。あるいは賄賂よりも、違法会計処理の方が簡単で、誘惑が大きいのかもしれない。

東芝の不正会計は結局合計でどのくらいになったのだろうか?1500億円?2000億円?
1ドル120円で換算すると法人の罰金額の上限2500万ドルは30億円。